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臨床に立ち返ること

 今回取り上げる文献はこちらです。 Rosenbloom, S. (2019) Working Through: Reflections on the Patient's Contribution to the Analytic Process. Canadian Journal of Psychoanalysis, 27, 310-321. 「ワーキングスルー:分析過程に対する患者の貢献についての省察」といった感じでしょうか。教科書通りではないという怖れから、本当の治癒要因が公表されないという問題は日本だけではないようです。ではまず要約してみましょう。 ***************************************** 精神分析は患者自身が進めていくものだという考えは新しいものではない。本論では、分析においてもやはり患者は自分の人生に目鼻を付けようと一生懸命だということ、そしてそのときの心的プロセスに着目してみたい。ワーキングスルーという概念は、解釈による驚きと洞察という分析体験とは対照的に、何度も何度も同じことを繰り返し、少しずつ、ほんの少しずつ積み重なっていく分析過程というものに焦点を当てている。患者自身が繰り返し自問し、自分自身で変わっていくプロセスを、分析家は待つことができなければならない。 分析過程は複雑で、分析家も患者もともに何がワーキングスルーを進めているのか全てを把握できているわけではない。解釈以外の様々な要因が関わっており、分析家も解釈以外の形でワーキングスルーに寄与している。分析家の解釈によって洞察が得られるという考えは疑わしい。患者は多くの場合、解釈を額面通りには受け取らない。患者なりにそれまでにはなかった認識を納得して受け入れていく無意識的なプロセスがあるものと思われる。 ある患者は数年間、週1回の心理療法を続けたあと、頻度を増やして精神分析に入った。分析家はあまり期待していなかったが、患者はそれまでとは打って変わって自由連想の才を示し、夢を見て、転移をセッションで扱えるようになり、洞察とはいかなるものか掴んでいった。患者は現実生活でも大いに進展を見せたが、うまくいっている最中で突然やる気をなくした。しかしそれでも、患者は現実生活において上々の仕上がりを見せた。それは結果的には、失敗を怖れて強迫的に努力するというよう